ヴァーチャル証人

 民事裁判のIT化の動きが速い。今年中には法律が成立する運びである。実際の運用までにはまだ時間がありそうだが、アナログ人間の私も、あと少なくとも10年くらいは弁護士の仕事をしていたいと思っているので、勉強しなければなるまい。

 ここから先は、私の妄想だが、いずれ裁判では「ヴァーチャル証人」が出現するのではないだろうか?いまでもコンピュータゲームなどでは芸能人にそっくりなヴァーチャルキャラクターが活躍している。技術的には、ある人の顔つき、表情、仕草、動き方、声、話し方の癖などを本人そっくりに取り込んで、その人の精巧なアバターをヴァーチャルの世界に作り出すことが可能なのだと思われる。

 また、すでにAI技術の進歩で将棋の世界ではAIにプロ棋士がかなわないところまで来ているのだから、AI技術を活用して、客観的証拠に矛盾することなく、かつ主尋問、反対尋問の数十手先を読み、自分の方に有利なストーリーで受け答えができるようなプログラミングも可能だと思われる。

 本人そっくりで、客観的証拠に矛盾せず、反対尋問の追求も上手にかわしながら、嘘がつけるバーチャル証人の完成である。

 そうすると、民事裁判のIT化によって、証人本人が出頭していると称しながら、実はバーチャル証人が証言をしているということも技術的には可能になるのではないだろうか?もちろんそのようなことはある種の詐欺で、法律がこれを許すとは思えないけれども、悪い人が本気になって裁判所を欺こうとしたときに、これを裁判所が見破るだけの技術があるのだろうか?

 さらにいうと、被害者保護などの名目で、本人ではなくバーチャル証人が証言することが一定の条件で認められることはあり得ないとまでいえないように思う。例えば性犯罪の被害者の証言などは現在でもビデオリンク式の証人尋問が認められるなど、証人の負担を軽減する措置がとられているが、これをすすめていけば、「被害者保護」「セカンドレイプを避ける」などの美名のもとに、刑事裁判の法廷でバーチャル被害者が証言することが認められることにはならないだろうか。

 AIやITは確かに技術的にはすごいのだろうけれど、生の証人が直接裁判所に来て、裁判官や当事者の前で宣誓の上で証言するという伝統は、長い時間を経て築かれてきた人類の知恵でもある。

 IT化、AI化で大切なものが失われることがないか少し心配である。