裁判員 やる人 やらん人

 来年の4月1日から成人年齢が18歳に引き下げられるのと関連して、裁判員の選任資格も18歳に引き下げられることになったと一部のマスコミが報道していた。北海道新聞の記事では「高校生困惑」などの見出しが躍っているが、困惑する必要は全くない。そもそも裁判員にあたる確率は年賀状の切手シートがあたる確率よりも間違いなく低いし、仮に裁判員にあたったとしても高校生は辞退が可能だからである。

 今回は裁判員選任の仕組みなどについて述べてみたい。

 裁判員法によると衆議院議員の選挙権を有する者に裁判員の資格があるが、欠格事由、就職禁止事由、辞退事由がある人が除かれることになる。

 欠格事由は前科だったり、心身の故障などである。

 就職禁止事由は、結構たくさんあって国会議員、法曹関係者、警察官などが就職禁止事由になっている。意外なところでは自衛官が含まれている。この点、幹部自衛官はともかくとして、一般の自衛官まで就職禁止事由になっているのは個人的には疑問である。また、私はもし裁判員にあたったら是非とも裁判員になりたいと思っているが、弁護士が就職禁止事由になっており、紛れ込もうにも、裁判所に顔が割れているし、「真与」なんて名前はなかなかいないので無理である。

 欠格事由、就職禁止事由は裁判員を「やりたくともやれない人」のくくりである。

 

 辞退事由は「やりたくなければやらなくてもいい人」のくくりであり、70歳以上の方、学生・生徒、過去一定期間内に裁判員にあたった人などのほかに下記の場合が辞退事由とされている。

①「介護または養育が行われなければ日常生活を営むのに支障がある同居の親族の介護又は養育を行う必要があること」

 

②「その従事する事業における重要な用務であって自らがこれを処理しなければ当該事業に著しい損害が生じるおそれがあるものがあること」

 

①②の解釈は玉虫色で、介護、育児、仕事なので忙しいし、裁判所まで行って裁判員をやるのは面倒だといった程度でも辞退が可能なように読める。要するに広く解釈するとほとんどの人が辞退事由があることになるし、狭く解釈するとほとんどの人があてはまらないことになる。実際の運用としては、①②の事情があるかどうかは自己申告で、調査されることもないので①②にあてはまるとして辞退することが可能である。実は裁判員になることは義務で、正当な理由なく裁判所に出頭しないと10万円以下の過料に処せられるのだが、過料に処せられた人は聞いたことがない。

 

 その結果、裁判員の辞退率は70パーセントくらいになっており、100人に出頭要請しても実際に裁判所に来るのは30人くらいとなっている。そして、裁判所に実際にやってくる人にはある種のバイアスがかかっていると思われる。要は真面目な人、時間に余裕のある人、意識の高い人が多く集まるのだ。私の経験では、裁判員にあたった後に結婚し、配偶者の仕事の都合で函館に転居したにもかかわらず、わざわざ札幌の裁判所までいらしたという真面目な方もいた。また、意識の高い人というのは、犯人処罰への正義感が強い人が圧倒的に多く、冤罪を防ごうという方向で意識が高い人は少ないだろうというのが私の個人的感想である。現役世代で定職に就いている方の多くは辞退しているのではないだろうか。

 

 そんなわけで、広く一般市民の感覚を刑事裁判に取り入れようという裁判員制度を導入したそもそもの狙いがないがしろになっているのが現状だと思う。せめて、国政選挙の投票率ぐらいまで出席率をあげてほしいものである。裁判員の出席率をあげるためには、裁判員の日当を上げるのが手っ取り早いと思うのだが、いかがだろうか。現在は1日1万円のようであるが、せめて1日3万円にしたら出席率は間違いなく上がると思うのだが…。予算が心配という方もいらっしゃるだろうが、裁判員裁判対象事件の事件数から見て、全国でせいぜい十数億程度の予算規模であり、航空自衛隊の戦闘機1機の値段でお釣りがくる。

 

 マスコミも高校生が裁判員になると騒ぐより、裁判員の出席率をあげるように国に働きかけてほしいものである。

 

 今年1年ありがとうございました。来年もよろしくお願い致します。年始は1月4日からの営業予定です。