取調べの付添い

 ある日、出勤しようと家を出たら見知らぬ2人組の男たちから声をかけられた。男たちはチラリと身分証のようなものを見せ、「警察です。○○警察署までご同行願います。」と強い口調で言ってきた。一般市民で、これを断って会社に行くことができる人はほとんどいないと思われる。「願います。」という言葉が入っているのはまだいい方で、「これから○○署に行くから」とか「ここじゃなんだから話は○○署で聞くから」とか、とても一般市民が断れるような雰囲気でないことが多い。

 上記は任意同行の場面であり、法律的には断って会社に行ってもかまわないのである。但し、既に逮捕状が出ており、念のために任意同行を求めている場合もあるので、一般市民としては特に緊急の用事がある場合は別にして、素直に従っておいた方が無難であると思う(あくまで私見ー緊急の用事がある場合、警察官に事情を説明すれば、とりあえずその日は解放してくれることもあると思われる)。下手に暴れたりすると公務執行妨害で現行犯逮捕ということにもなりかねない。この時点で、もし知り合いに弁護士がいるのなら連絡を取ってみるのがよいと思う。面識の無い弁護士だと、そもそも電話の相手がどんな人かわからないので対応できないと思われる(少なくとも私は対応できない。)。

 

 警察署に行くと何らかの事件について事情を聴かれることになる。その際に「黙秘権の告知」(「言いたくないことは言わなくていいから」など)があると、容疑者扱いであることがわかるのだが、一般市民の場合、警察に連れてこられた段階でパニックになっており、「黙秘権告知」があったかどうかなど覚えてないことも多い。また、事情を聴かれる事件については、身に覚えがあることもあれば、全く身に覚えがないこともあるだろう。

 逮捕されていなければ、原則としてその日のうちには帰宅できるはずである。逆に逮捕されていれば、帰宅することは不可能で警察署の留置場で泊まることになる。

 

 帰宅することができたなら、なるべく早く弁護士に相談すると良い。逮捕されていない場合には、事情聴取のために出頭する日を自分の都合で決めるのも自由だし、一旦警察署に出頭したとしても何時帰るのも自由というのが法律の定めである(任意処分)。但し、頑なに出頭を拒んでいると、かえって逮捕される可能性が高まる場合もあるので、素人判断は禁物である。

 

 刑事弁護を熱心にやっている弁護人の間で、取調べに立ち会おうという動きがある。諸外国では、弁護人が依頼者(容疑者)と一緒に取調室の中まで入って、取調中に適宜アドバイスすることが認められている国も多い。我が国の弁護人も、最終的には依頼者と一緒に取調室に入ってアドバイスすることを目指しているが、警察の拒否反応が強く、いまのところほとんどの場合取調室内には入れない。私も取調室に入れたことは無いが、依頼者に付き添って警察署に行くという弁護活動を実践している。依頼を受けた場合には、取調べの日程調整段階から弁護人として介入し、私が都合のつく日にちを取調べの日に指定してもらう。そして、取調べ当日は依頼者と一緒に警察署に出頭し、警察署のロビーなどで取調べが終わるまで待機するのである。取調中に依頼者に相談したいことがあれば、取調べを中断してロビーまで来てもらってアドバイスする。取調べが長時間続くようなら、一旦休憩して弁護士と話をさせるよう警察に求める。また、供述調書に署名捺印する前には、かならずロビーまで来てもらい調書の内容について相談してもらうようにしている。

 依頼者からは、「弁護士さんにいてもらって心強かった」とか「警察官に押し切られそうだったけれど、弁護士さんに相談して持ちこたえることが出来た」などの感想をいただいている。

 時間も手間もかかるので、国選ではできないし、逮捕・勾留された場合には日程調整や帰宅の自由が無いので付添いは難しい。ただ、一般市民の場合、思いの外逮捕されずに任意で事情を聴かれるだけで事件が終了する場合も多い。

 

 万が一あなたやあなたの親しい人が、警察から任意で事情を聴かれるようなことがあれば、弁護士に取調べに付き添ってもらうことはできないか相談してみると良いかもしれない。