クスリのやめ方

 沢尻エリカ、田代まさしと違法薬物で逮捕される芸能人があとを絶たない。

刑事事件を扱う弁護人として、逮捕段階で有罪と決めつけるわけにはいかないけれど、世の中には違法薬物が蔓延しているなぁとつくづく思う。

 仕事上、毎日のように裁判所に行き、裁判所の開廷表(その日の裁判の予定表)を見るけれど、必ずあるといっていいのが「覚せい剤取締法違反」の裁判である。裁判所は土日は休みなので、裁判所が開くのは年に二百数十日だと思う、1日1人として二百数十人、おそらくは年間300人以上が札幌地方裁判所で覚せい剤取締法違反の裁判を受けている勘定になると思う。

 私自身、覚せい剤取締法違反とか大麻取締法違反とか薬物犯罪の弁護活動をした依頼者(被疑者・被告人)は数十人はいるのではないかと思う。もちろん初犯の方もいたが、多くは何度目かの裁判である(6,7回目という方もいたと思う)。

 非常にアバウトな話だし、私の個人的感想であるが、末端の乱用者だと、初犯は概ね執行猶予がついて裁判が終われば社会復帰できる。執行猶予期間中にまたやってしまうと、多くの場合、執行猶予が取り消される上に1年ぐらいの懲役刑になるので、だいたい2年くらいは刑務所に入ることになる。

 これで、クスリをやめられるとよいのだが、やめられないと、また捕まることになり、捕まる度に2年→2年6月→2年10月→3年と重くなり、気がつくと成人してから今までの人生の半分以上が刑務所暮らしであったという方もいた。

 覚せい剤の使用は法定刑が10年以下の懲役だが、末端の乱用者レベルだと3年6ヶ月ぐらいが上限で、覚せい剤使用10回目だから懲役10年となるわけではない。

 薬物を使用してしまった方のほとんどは、「今度こそやめよう」「これで最後にしよう」と思っている。私も「奥田が弁護を担当するのもなにかの『ご縁』なので、これを機に薬物使用は終わりにしてほしい。」と願いつつ、弁護活動をしているつもりである。ただ、残念なことに弁護人の仕事は基本的に裁判が終わると終わってしまうので、執行猶予がついたあとの生活相談にのったり、刑務所に入っている間に連絡をとったりすることはほとんどない。結局、その方が薬物をやめられたかどうかわからないことがほとんどで、たまに他の弁護士から「以前奥田さんが担当した○○さん、今私が弁護人で(薬物の)裁判になってますよ。」みたいな話を耳にして、「ああ、○○さんやめられなかったんだねぇ~」と思う程度である。

 

 「治療的司法」という割と新しい考え方がある。非常に大ざっぱな説明だが、薬物犯罪については薬物依存症という疾病であるととらえ、弁護活動で医療や福祉とも連携して、薬物依存症から立ち直ってもらい、社会復帰を支援しようという考え方である。

 現状では、刑事弁護人にできることには限りがあるが、私もご本人が希望すれば医療や福祉と連携して薬物依存症からの回復に力を尽くしたいと思う。しかしながら、初犯の場合、依頼者ご本人が「薬物依存症」であるという意識に乏しいことが多く、治療につながらないことが大半である。初犯の方の多くは薬物は自分の意思でやめられると思っているためである。もちろん、自分の意思で薬物をやめて立ち直っている方もたくさんいらっしゃると思うけれど、私の感覚だと3回目以上は「依存症」で自分の意思だけではやめられないのではないかと思われる。

 田代まさしだって、自分が依存症だとの自覚はあったと思われるし、ダルクという薬物依存から立ち直るための施設でボランティアをしていたという。

 それでも、やめられないのが「クスリ」なのだ。「被告人の薬物に対する常習性・親和性・依存性は強く、薬物に対する規範意識が鈍麻している。」というのは検察官の薬物裁判における常套句だが、そんなことはわかっているのだ。わかっちゃいるけどやめられないのが「クスリ」だし、だからこそ「薬物依存症」という病気なのだ。

 私の考えでは、薬物依存症は癌と同じで不治の病ではないかと思う。癌はものによっては完治する時代になったので、見方によっては薬物依存症は癌よりもたちが悪い病気なのではないかと思う。

 ブログのタイトルは「クスリのやめ方」だが、クスリにはやめ方などないと思う。クスリがやめられているのは、薬物依存症という不治の病がたまたま再発していないだけであり、経過観察を怠るとたちまち再発してしまうものなのだ。

 世間的な意識からはずいぶんズレていると思うけれど、そのぐらいの気持ちで取り組まないと薬物依存症からの回復は困難であると思う。依存症患者を何度も刑務所送りにするだけでは、問題は解決しないと思うのだ。