「お名前」のはなし

 私の名前は「真与」と書いて「まさとも」と読む。「まさよ」「まよ」「まゆみ」「まさもと」などと読む人がいて、初見で読める人はまずいない。

 また、「真与」も「真弓」「真予」「真子」と書き間違える人が多くいる。

 電話などで名前の字解きをするときも結構面倒で、

「まさとも」といいます。

「まさ」は「真実」の「真」。 「はい。」

「とも」は「与える」と書いて「とも」読ませるのですが…。 「えっ。」

「ショージョージュヨ」の「与」なんですけれども…。 「えっ。」

「与作」の「与」なんです。 「あっ、あァ~。」

などということがときたまある。

 

 この名前になって50年以上経つけれど、自分でも読み間違いやすく書き間違いやすい名前であることはよく解っている。だから、人に読み間違えられたり、書き間違えられることについては、とてもおおらかに考えることができる。正直間違われても何とも思わない。

 

 ところが、人によっては自分の名前の書き間違い、読み間違いを結構気にする方がいる。「司」「次」「二」であったり、「利」「里」「理」だったり、読み方も濁るのか濁らないのかだったり、いろいろである。

 

 もちろん他人のお名前を正しく読み書きするのが礼儀であり、間違えるのは失礼なこともよく解っているつもりである。ただ、50を過ぎた頃から固有名詞に関する記憶力は衰退の一途をたどっており、同じ時期に「恵理」さんと「里絵」さんが依頼者や相手方にいたりすると、間違わないことは極めて難しい。

 

 普通は、謝れば許してもらえるが、それですまなかったことが2度ある。

 1つは、遺産分割の事件で、受任通知を出したのだが、一人の名前を書き間違えていたのである。「健司」さんを「健二」さんというぐらいの間違いだったと思う。

 その後、相手方から特に返事もなかったので、遺産分割調停の申立をした。調停期日に出頭すると、相手方の「ケンジ」さんが、「自分のところには受任通知が来ていないので調停の申立は無効である。」と主張していると調停委員から聞いたのである。別にあらかじめ通知を出しておくことが調停開始の有効要件ではないけれど、実質的話し合いに入る前の入口のところで調停がストップしてしまったのだ。

 結局この時は、調停を担当する裁判官が乗り出してくれて、受任通知が調停の開始要件でないことや私の書き間違いに悪意がないことなどを時間をかけて説明してくれたおかげで最終的には調停で解決することができた。

 

 2つ目は、同業者の方なら経験がある方も多いと思うが、債務名義(登記や差押に用いる裁判所が作る公的な書類)の書き間違いである。登記では「高橋」と「髙橋」や「ワタナベ」の「ベ」(辺、邊、邉)、「サイトウ」の「サイ」(斉、齊、斎)を間違うと法務局が受け付けてくれないこともあるようだ。

 通常は、更正決定といって、要は「書き間違いでしたので訂正します。」という裁判を改めてしてもらって、その書類をつけて手続をし直すことになる。

 この程度のことはたまにあるのだが、遺産分割の相手方が10人以上もいたために、特別送達(裁判所の書類を送達するための特別な郵送の方法で1,000円以上の切手代が必要)をやり直す必要があって全部で10,000円以上の出費となってしまい、「もったいないな。裁判所の書記官がちゃんと見てくれれば良いのに。」とぶつぶつ言っていたものである。

 

※一部、創作・抽象化しております。