カムバック英語力

 学生時代、英語は比較的得意な方だった。それから30年、自分の英語が全く役に立たないことを痛感させられた。

 始まりは、12月26日(金)の刑事弁護センターからの電話であった。

 仕事納めでもあるし、そろそろ片付けをして早帰りしようと思っていた矢先のことである。千歳警察署に逮捕された中国人に面会に行くようにとの電話であった。もちろん私は中国語など話せない。弁護士会からの通訳人リストを見て一緒に面会に行ってくれる通訳人を探すことにした。年末の26日に警察まで行ってくださる奇特な方は少なく、多くの通訳人に断られたあげく、ようやく同行してくれる通訳人の方を探し当て、千歳署で待ち合わせて面会した。通訳人も英語、中国語、韓国語くらいだと比較的たくさんいらっしゃるのだが、アラビア系の言葉になると通訳人を探すことすら困難である。

 このまま年明けまで犯人を放っておくわけにもいかないので、週明けの29日(月)にも再び通訳人と面会に行った。ホントは正月休みにしようと思っていたのだが仕方ない。

 面会に行くと「本当は31日に帰国するはずだったが、このままでは帰国できず両親や勤務先が心配するので何とかして欲しい。」とのことである。そこで通訳人に簡単な手紙(中国語)を書いてもらい、千歳の郵便局から実家宛にエアメールで郵送した。「昔はエアメール高かったっけ?」と思ったら、なんと日本とほとんど変わらない90円であった。

 正月休み明けの1月5日(月)、9時に事務所に出勤し、年賀状でも整理しようかしらと思っていたら電話が鳴った。

 「ハロー… ローヤー… アイアムファーザー」どうやら中国人の父親からのようだ。「イエス アイアム ローヤー キャン ユー スピーク ジャパニーズ」。「ノー」。

 これが相手が日本人なら、「正月休みで電話がつながらなくてご心配されたでしょう。」ぐらいの気の利いたあいさつもできるのだが、英語で話そうにも全く言葉が出ない。おそらく父親は内心「弁護士なんだから、英語ぐらい話せるようになっておけよ!!」と思っていたはずである。しかし、息子の安否確認はこの頼りない日本人にかかっている。非常にゆっくりしたスピードで話してくれた。

 「マキシマム?」。

(ははーん、最大で何年刑務所に入るのか聞いているのだな。)

「10 イヤーズ」

「オーマイゴッド」

(うわー、落ち込んでる。そら、10年なんて聞いたら落ち込むよな。執行猶予って英語でなんていうのかな。わからん。)

「ユア サン カム バック ホーム イン ア フュー マンス」

(これで少しは安心してくれるかしら)

 といった、たどたどしいやりとりの末、父親が私のメールアドレスを聞いてきた。bとv、aとeなど何度も確認しながらようやく伝え終え、電話を終了した。

 しばらく後、父親からメールが着信。メールのなかった時代ならそのまま音信不通になるほかない状況であった。

 メールでやり取りできるようになったため、リスニングとスピーキングの難点は解消されたが、父親の英語の意味が解らないし、何とか調べて返事をしようにも英語でどう表現してよいか解らない。特に時制や前置詞などはメチャクチャである。

 その日の夕方、彼の勤務先から電話があった。それも日本語で。日本語のわかる方が勤務先にいらっしゃったようである。『地獄に仏』とはまさにこのことである。勤務先のメールアドレスも伺い、日本語で父親には伝わらなかったであろう微妙なニュアンスを伝えた。

 その後も、通常のやり取りは父親と英語メールで、ここ一番の微妙な点は日本語のわかる勤務先の方に日本語メールでといった調子でやり取りすることとなった。

 そして先日、父親が来日し、犯人と約25日ぶりに面会がかなった。

涙、涙の再会であった。

 

 テレビのバラエティー番組などで、芸能人が海外に取材旅行中、空港で逮捕され、警察官に脅されるなどのひどい目に遭うドッキリがあるが、外国で逮捕されれば本当に寂しいし、心細い気持ちになるはずだ。家族にしてもなかなか安否は確認できないし、面会に来るのも一苦労である。日本でももちろんだが、海外では絶対に逮捕されるようなことをしてはいけないと思った。

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コメント: 1
  • #1

    勃起不全 (火曜日, 28 4月 2015 16:58)

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