差押えの限界

 とある外国人依頼者の事件のことです。弁護士をしていれば珍しいことではないのですが、この事件も強制執行が困難な事件でした。要するに裁判には勝ったけれども、現実にお金を取り戻すことができなかったという事件です。依頼者曰く「どうしてお金返さなくていいの?お金を返さないと刑務所にいくでしょう?」とのことです。

 日本の法律では、お金を返さないからといって、そのことが直ちに犯罪になるわけではありません。もちろん、最初からまったくお金を返すつもりが無いのに借りたりすれば犯罪です。最近も「安愚楽牧場」の詐欺事件などで報道されているとおりです。しかしながら、契約違反がらみで詐欺などの刑事事件になることは、まれといってよいと思います。

 また、日本の強制執行制度は、申立が認められるために種々の制約があって、せっかく強制執行の申立をしても現実にお金を回収できないことが結構多いのです。

 最近の最高裁判所の判断でも

 1、銀行の全ての店舗や貯金事務センターを対象にした預金の差押えの申立は不適法であるとされたり(最高裁判所平成23年9月20日)

 2、差押命令が送達された後1年間のうちに入金された部分を対象とする預金の差押えの申立は不適法であるとされたり(最高裁判所平成24年7月20日)

しています。1は、例えば北洋銀行の札幌市内の全店舗といった申立を認めず、債権者の方で北洋銀行○○支店と支店を特定する必要があるという趣旨ですし、2は、差押命令が送達された日の預金残高が0円でその翌日に100万円が入金になったとしても、100万円には差押えの効力が及ばないという趣旨です。

 市民の皆様には、少しわかりにくいかも知れませんが、上記の1、2で最高裁が異なる判断をしてくれれば、預金の差押えをした場合の回収率は相当あがったと思われます。

 最高裁の判断は、預金の差押えがある種のギャンブルとなっている(どの支店に何時充分な預金残高が残っているかを債権者が調査することはほとんど不可能なため、回収できるかどうかは運頼みなのが現状です。)現状を追認するものでした。

 このように、日本の強制執行制度は実効性に乏しいものであり、外国人の依頼者が「法律が間違っている。」とおっしゃる気持ちもよくわかります。しかしながら、日本においては少なくとも20年くらい前までは、このような実効性に乏しい強制執行制度でもそれほど不都合がなかったと思われるのです。それは、20年くらい前までの多くの日本人は、差押えの申立をされる前に、裁判に負ければ自発的にお金を返していたと思われるからです。また、そもそも強制執行までしなければお金を返してもらえないような事案では、裁判も起こさずにあきらめていたと思うのです。

 自己破産の申立件数を調べてみますと、平成2年頃までは個人の自己破産の申立件数は全国で1万件前後で推移しています。初めて5万件を超えたのが平成8年で平成15年の24万件をピークに今では10数万件台となっています。要するに、昭和時代は自己破産の申立をする個人などほとんどいなかったわけです。確かに私が修習生だった平成4年頃も、個人の自己破産の手続は珍しかったため、わざわざ見学をしにいったくらいです。個人が借金をする場合、多くは身内に連帯保証人になってもらいますので、昭和時代の日本人は、身内に迷惑を掛けられないと自己破産の申立をすることは無かったのです。また、自己破産という手続そのものになじみが無く、戸籍に載ったり、選挙権が無くなるといった事実と異なるマイナスイメージもあって、個人が自己破産の申立をすることははばかられることだったのです。日本人の「恥」の文化が生きていたといえるでしょう。また、貸した側でも「自分に人を見る目がなかった。」と泣き寝入りすることが多かったのではないでしょうか。これも「恥」の文化といえるでしょう。

 このような、日本人の「恥」の文化、価値観を少なくとも借金問題に関しては一変させたと思われる事件があります。それは住専問題です。

 平成7年に発生し、住宅金融専門会社が破綻しそうになって、公的資金を導入するかどうかで社会問題になりました。個人の自己破産の申立が5万件を超えた前の年の話です。

 金融機関が借金を踏み倒すわけですから、個人にとっても借金を踏み倒すことへのハードルが低くなって当然です。これ以降、個人の自己破産の申立は珍しいものではなくなりました。

 このように、借りたお金に対する日本人の価値観が大きく変わっているのですから、強制執行の制度も大幅に見直す必要があると思うのですが、いかがでしょうか。

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コメント: 4
  • #1

    勃起不全 (火曜日, 28 4月 2015 16:57)

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  • #2

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  • #4

    匿名くん (月曜日, 25 3月 2019 06:54)

    いや、もしそうなるなら訴訟制度を変えないと安易に訴訟を起こされた人々が弁護士も雇えずに敗訴になった場合、強制的にお金を徴収出来るようになる。
    そんな世の中はまともになりえない。金を持った奴のやり放題の社会になる。