回収が難しい事案

 裁判には、建物明け渡しとか離婚とかお金の支払いを求めない裁判もありますが、圧倒的に多いのはお金の支払いを求める裁判です。損害賠償請求、慰謝料請求、貸金請求、立替金請求、売掛金請求、請負代金請求などです。建物明け渡しや離婚の裁判でもそれと合わせて金銭(賃料相当損害金、養育費など)の支払いを請求するケースが多いです。

 お金の支払いを求める裁判では、裁判に勝っただけではお金を払ってもらえるわけではありません。もちろん裁判に負けた人が自発的に払ってくれる場合もありますが、多くの場合は裁判に負けた人の財産を差押えして、その財産から払ってもらうことになります。差押えができる財産としては、土地建物、預貯金、給与(全額は差押えできませんが)などがあります。年金や生活保護は差し押さえることができません。土地建物は、ローンが残っているとローンの支払いが優先されます。

 預貯金については、差押えの効力が生じた時点の預貯金残額にしか差押えの効力が及ばないので、せっかく差押えをしても数千円しか残高がなかったといったことも珍しくありません。

 せっかく裁判に勝っても、現実にお金を回収することが難しい事案はみなさんが想像している以上に多いのです。ですから、判決まで持ち込んで決着をつけるより、ある程度譲歩(金額を減額したり、分割払いにすることを承諾したり)して、和解で解決する方が、現実にお金を支払ってもらえる可能性が高く、そのような解決が望ましい場合も多いのです。

 法律相談を受けてご相談者のお話を聞いていると、これはご相談者が裁判に勝っても、現実にお金を回収するのは難しいなと思うこともよくあります。そんな場合、私は、ご依頼を受けるのがよいのか悩んでしまいます。弁護士が依頼を受ければ、弁護士報酬を頂戴することになります。訴訟を提起する場合、書類を作成しなければいけませんし、裁判所にも何度か出向くことになります。事務所の維持を考えると最低でも20~30万円の弁護士報酬を頂戴しないと事務所経営は成り立ちません。

 私の場合、お金を回収するのが難しい事案の場合、ご相談者にその旨説明し、場合によっては少額訴訟の利用を進めるなど、弁護士に依頼せず訴訟手続をすすめる方法をアドバイスすることもあります。また、ご相談者が高齢などの理由で、ご自身で手続をすすめることが難しそうな場合、10万円程度の弁護士報酬で受任することもあります。

 お金の支払いを求める裁判で、多くの弁護士が現在も報酬の基準としている日弁連の旧報酬規定は、支払を求めるお金の額を基準に報酬が決まることになっています。目安の額は、300万円で24万円、1000万円で59万円、2000万円で109万円、3000万円で159万円となっています。

 現実に回収が見込める事案ならいいのですが、私は、回収が見込めない事案でこの報酬基準どおりに弁護士報酬を頂戴することはありません。下手をすると1円も

回収できないかもしれないのに、依頼者の方から何十万円も頂戴するのでは全く依頼者の利益にならないからです。多くの良心的な弁護士は回収が難しい事案で報酬基準どおりの弁護士報酬をもらっていないと思います。

 テレビなどで大々的に宣伝をしている事務所がどのようにしているか分かりません。

 お金の支払いを求める裁判について弁護士に相談する場合、良心的な弁護士なら、必ず回収の見込みについて見通しをアドバイスしてくれるはずです。回収の見込みについてアドバイスもせずに受任を勧誘するような弁護士に依頼することはお勧めできません。