飲酒、喫煙、覚せい剤

 私は、酒も飲むし、タバコも吸う、というか酒もタバコもやめられない。他方、覚せい剤取締法違反で捕まった犯人に覚せい剤はやめたほうがいいという。

 精神科医学の立場からすると、アルコール中毒もニコチン中毒も覚せい剤中毒も化学物質依存症という病気としてひとまとめにできるのだと思う。飲酒、喫煙と覚せい剤使用を区別できるのは、現在の日本の法律では、飲酒、喫煙は合法で処罰できないのに対し、覚せい剤使用は違法で処罰できるからである。

 しかし、合法か違法かの区別は相対的なもので、戦前のアメリカには禁酒法があり飲酒は違法であったし、イスラム教や厳格な仏教においても飲酒は戒律違反である。現代の禁煙推奨の風潮に鑑みると、近い将来「禁煙法」なるものが制定されるかもしれず、そうなれば、喫煙も違法となる。

 他方、戦前の日本では、覚せい剤の使用は合法であり、大手製薬会社が「ヒロポン」の名称で販売し、街の薬局で誰でも購入できた。戦争中は、戦闘機のパイロットや勤労動員されて夜通し働く工員さんが、眠くならずにすむという理由で使用していた。戦後も、芸人さんやバンドマンが、夜も眠らずに遊べるという理由で使用していた。覚せい剤取締法が制定され、覚せい剤の使用が違法になったのは昭和26年のことである。覚せい剤中毒の人を俗に「ポン中」ということがあるが、ヒロポン中毒の略称であるといわれている。

 

 「パターナリズム」という言葉がある。簡単にいうと「余計なお節介」、「善意の押し売り」のことである。

 「健康のためにお酒やタバコはやめたほうがいいですよ。」といわれることがある。いわれる相手や、時と場合によりけりだが、「余計なお世話」とムッとすることがある。酒やタバコが、健康に悪いのは十分分かっているつもりである。それでも「お前にいわれたくねぇよ。」と思うことがある。

 「覚せい剤の使用は犯罪だからやめようね。」という刑事弁護人としての私の言葉も覚せい剤の使用が犯罪だと十分に分かっている犯人にとっては「お前にいわれたくねぇよ。」と思われるのかもしれない。